結果、与えられたのは銀のトロフィー。

俺の2つ後に舞台へ出ていった人を見て、やられたと思った。


色素が薄く襟足の長い髪、キャラメルのように甘くほろ苦い眼差し。

自分のことにいっぱいいっぱいでろくに見ていなかったコンクールのパンフレットを見て愕然とする。

この前他人事のように思っていた楽譜を眺める姿は、今日のために準備されてきたものだったのか。


泉水指音
曲目はリストの「ため息」と、同じくリストの「マゼッパ」。

プロの中でも弾けない人がいるぐらい難しい曲を、彼はとても簡単そうに弾いていた。

けれどそれは観客の何人かが涙するほど情熱的で無駄が無い。

まるで先生がピアノを弾いているんじゃなくて、ピアノ自体が高らかに歌っているようだった。


どれほど練習したらあそこまで辿りつけるのだろう。


あの日のように屈辱的な負け方をしたわけではないけれど、悔しい気持ちはもちろんあった。

それがたとえ、場違いな悔しさだとしても。