J-POPと比べてクラシックは一曲一曲がとても長い。
だから一曲弾くにも相当な体力を消耗する。
俺のできる全力を出し切って課題曲を終えた後、両腕に鳥肌が立つ。
緊張に押しつぶされそうになる。
俺が弾きたかったのはこの課題曲より、次に弾く自由曲だ。
もしこれが誰にも認められなかったらと思うと怖気づきそうで、だけど後には引けなかった。
息をついて目を閉じると浮かび上がるあの日の会話。
――じゃあアンタが弾いてよ。
――手、抜いたよね。
――観客に精一杯の演奏をするのがピアニストってもんじゃないの。
今日こそは、今からは、もうあんなこと言わせない。
聴かせてやるよ、ドアの外にいてもわかるぐらいの感動を。
弾き始めた曲はあの日の――
バッハ、「主よ人の望みの喜びよ」。


