最初に指が紡ぐのは課題曲、リストの「ため息」。
前半はどこか素朴にも感じるあたたかみを持ち、しかしそれは中間部になって激変する。
感傷的で情熱的、そして甘美な艶やかさを放つそれは、タイトル通り憂いを帯びたため息のようだ。
これを書いた時のリストの気持ちを感じろ。
その中に俺の気持ちを織り込め。
左手が右手の上に交差する華やかなこの演奏を考えた彼の想いを、抱きしめて駆け抜けろ。
目で見て耳で聴いてくれ。
これが今の俺だ。
今の俺にしか出せない音だ。
明日になったらこの音は出せなくなる。
だからこの一瞬、この刹那を。
観客の胸に、刻みつけろ。


