スタッフが彼女をドアの外に押し戻したのを見送ってから、俺はもう一度礼をやり直す。


大丈夫。
ホールの中にいなくても、あのドアの外で彼女が聴いてる。

一番後ろの席の人よりも、ドアの外にいる彼女との方が距離が近い。

そう思うと一気に呼吸が楽になった。


ピアノ椅子に腰を沈め、深呼吸。

そこまでの一連の流れの間に駒田のこともバスキーのことも頭から消え去った。




さぁ、始めよう。

俺の人生で最高の演奏を。