そして今、俺はこうして舞台袖で自分の出番を待っている。

仕事で今日は行けないと言っていたのに母さんはやっぱり来ることにしたようで、家を出る前に何度もネクタイをちゃんと締めたか確認された。


あの日のように無様な演奏はしたくない。

今度は泣かずに笑ってみせる。

そうして、いつの日かこのコンクールを思い出して幸せな気分になれるような。
そんな一日にしたいんだ。


周りを見回せば蒼白な顔で緊張に震える人、虚勢かと思うぐらい堂々と胸を張っている人、じっと楽譜を見つめている人。

たくさんの人がいた。


――見てみなよ、周りの人の流れを。


先生。
俺はこの中だったらどれに分類されますか。

それとも、この中のどれにも分類されないんでしょうか。


『続いて、エントリーナンバー○○番 北浜利一』

足が一歩、舞台袖の陰から光へ踏み出した。