休み時間はもちろん授業中の時間も惜しくて、俺はずっと机を鍵盤代わりに指運びの練習をしていた。

課題曲である「ため息」はとても技巧を凝らした曲だ。

本来ならこれをマスターするだけで精一杯かもしれないのに、俺はさらに自分へ追い打ちをかけようとしている。


放課後になって駒田が俺の席までやって来た。

「授業中、何してたの?ずっとトントン聞こえたけど」

「コンクール曲の練習」

端的に答えると彼は緩やかに双眸を細めた。

それに構わず未だ動き続ける俺の両指を見ながら、眩しいものをみるようにうっとりと微笑む。


「今までずっと自由曲で悩んでたけど、やっと決まったんだ」

課題曲は決まっていたのに、自由曲が決まらない焦りからまともに練習することができなかった。


これほど動きたがっていた指を、これほど誰かに演奏されることを望んでいた楽曲を、放っておいて申し訳ないとすら感じる。