家に帰ってすぐ、俺はピアノのある部屋へ急いだ。

ピアノを弾きたい。
もっと指を動かしたい。

音楽に、触れたい。


そんな俺の様子を見て、浅葱が笑う。

「兄貴はほんと極端だな。心配した方の身にもなれっつーの」

返事をする時間も惜しくて、俺は鍵盤に指を走らせる。

自分の体からは絶対に出てこない音。
それを指だけで引き出せる。

こんな素晴らしい楽器があるだろうか。


なぁ駒田、やっぱり俺ピアノが好きだよ。

だけど今まで胸を張ってそう言うのが恥ずかしかった。

だから嫌な思い出を上乗せしてその気持ちを掻き消そうとしてみたけど、無理だったよ。


一生側にいてもいい。
そう思えるぐらいには充分なぐらい好きだ。