「奏ちゃんっ」

奏を呼ぶ声の方に目を向けると、奏とは違って重たそうな鞄を抱えながら走って来る人物がいる。

膝まであるスカートに、きっちりとひとつにまとめられた髪。

化粧っ気のまったく無いその人物はなるほど、奏が以前言っていた通り“あっち側”の人だ。


それでもこうやって、噂で聞くだけではない彼女の姿を知っている。

「ご、ごめんね、遅くなって。保健委員の先生、話長くって」

息を切らしながら謝る彼女はその真面目な風貌から、髪を下ろせばどことなく若菜に似ているような気がした。

「リーチ、この子が沢渡歌花。んで、歌花、こいつが北浜利一」


控えめに会釈をして挨拶すると、沢渡がしかめっ面でこちらを見つめてきた。

最初のうちは目が悪いのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

「ふぅん…この人がリーチ?ふぅん、へぇ…この人が…」


前言撤回。
こいつはやっぱり若菜に似てなんてない。