中2まで彼女はピアノを習っていたと聞く。

けれど俺の家にピアノが来たのはそれよりだいぶ前のことだ。


「アタシの母さんはそんなに上手じゃなかったけど、ピアノが大好きでね。アタシも母さんを見てピアノを習い始めたけど、才能はちっとも無かった」

奏がケータイをパコンと閉じてポケットにしまう。

その一連の動作は、まるでこうなることがわかっていたかのように自然で無駄が無かった。


「そんな時、母さんの友達の息子がコンクールに出るから見に行こうって言われた。行って、演奏を聴いて、びっくりした。優勝した子が自分と同い年だなんてとても思えなかったよ」

ということは、奏が来たのは俺が駒田に負けた時のコンクールとは違うものだろうか。

風に揺られてキラキラとなびく髪は派手で校則なんてちっとも守っていないけれど、とても綺麗に見えた。


だけど彼女にはやっぱり、メッシュの入っていない髪の方が似合う。

「アタシが母さんに頼んだんだ。あの子にピアノをあげてって。あの子に弾いてもらえる方がピアノもうれしいよって」

何回も反対されたけど、リーチが弾いてくれてよかった。


そう呟く彼女は、今まで散々俺を叱って来た奏とはあまりにも雰囲気が違って。

どこに視線を合わせればいいのかわからなかった。