「振られたのは奏じゃなくて、俺の方だっつの!」


その言葉を咀嚼して飲み込むまでに数秒かかった。

瞬きしかできない俺に、タカの方も本気でわけがわからないようだった。


「ちょっと待ってくれよ…なんだなんだ、その俺が悪者みたいな扱い」

だって、悪者じゃなかったのか。

少なくとも奏はあんたのことをそんな風に話してた。

「奏から別れてくれって言ってきたんだぞ?好きな人ができたって。アイツが一緒にいる男子なんてアンタぐらいだから、そうなのかと思うだろ」


そんなことあるはずがない。

それにあの時の涙は、嘘をついていたなんて思えないんだ。

「他に奏は、何か言ってなかったか」

「あぁ?いや、それだけだったよ」

「そう、か…。ありがとう」


靴を履き終えて一歩踏み出すと、夏の湿った風が俺の背中を後押しするように吹き抜けた。