謙遜の否定はこの場にはそぐわないと実感した。
密かに深呼吸をして、大きく頷く。
「…俺も、そう思う」
だから今、ここにいるんだ。
俺がここにいるのはピアノや駒田のおかげだけでは、ないと思うけど。
「練習の邪魔してごめんね、そろそろ戻るよ」
そう言って腰を浮かせた駒田に、ピアノの蓋を閉めながら言う。
「平気だよ。もう帰ろうかと思ってたんだ」
「そうなの?今日は早いんだ」
「家でゆっくり練習するよ。それからちょっと、」
考えたいことがあるんだ。
その言葉を出しかけた寸前で止めて、俺は曖昧に笑う。
練習室の小さな窓から見える空の青はどこか薄く掠れていた。


