駒田がゆるりと微笑んで肩の力を抜く。


「ピアノを辞めてチューバをやりたいって言った時、じいちゃんはすごくうれしそうだったんだ。その時思ったんだよ。
誰かを笑顔にできない音楽は、音楽なんかじゃないって」

そうか、彼の優しすぎる音楽論はここから来ているのか。

やっと納得できたと同時に確信する。


生涯俺は、彼と演奏できたことを誇りに思うのだろうと。

そう思えるだけの高みへ彼は到達するのだろうと。


ね、と同意を求められた声に頷けるだけの感銘を、その時の俺は受けたのだと思う。

「演奏者が楽器を選ぶのはもちろんだけど、楽器も演奏者をちゃんと選んでいると思うんだ」

そう言って、眩しいぐらいの笑顔を俺に向けてくる。


「北浜くんだって、ピアノに選ばれた奏者だよ」