何か安心を得たくてこぶしを握り締めると、駒田もチューバケースをそれまでより強く抱きしめた。
「それから俺は自分に自信を無くした。お金を出さなければ優勝も得られないほど、自分に才能が無いことに気付いたんだ」
違うと声を張り上げたくなった瞬間、駒田の声が急にやわらかくなる。
角をすべて削り取った、聴く人を安心させる声で。
「そんな時にじいちゃんが勧めてくれたのがチューバだったんだ。それまで俺はチューバに興味なんて無かったし、どんな楽器かも知らなかった。だけど一度やってみてわかったんだよ」
チューバとなら、一緒にいられるって。
ふわふわ優しいその声は、チューバにもきっと伝わっているのだろう。
あんなに安定していて明るく優しい、けれど強みのある音は駒田にしか出せない。
「じいちゃんが、言ってくれたんだ。この楽器はお前を呼んでるって。…それが本当かはわからないけど、そうだといいな」
「きっと、そうだよ…」
いいおじいさんだ。
きっと家族の中で駒田を一番理解しているのはおじいさんに違いない。
だって彼はチューバの側にいる時が、一番楽しそうなんだ。
