一気に加速する鼓動に呼吸が追いつかず、俺は制服の胸元を強く握り込む。

体中が汗ばむのは暑さのせいだけじゃない。


「初めての優勝トロフィーは今すぐゴミ箱に捨ててやりたいぐらい嫌な思い出になったよ。だって絶対、俺の前に出ていた男の子の方が上手だったんだ」

俺の方が絶対に上手かった。

だからあんなに悔しかった。


「忘れないよ、北浜利一くん。君の演奏を忘れたことなんてなかった。
あの日からずっと君は俺の、尊敬すべきピアニストだよ」


駒田に尊敬されるような部分なんて、俺にはひとつも無い。

ちょっとしたことですぐに泣いたり落ち込んだり、ついこの間なんてピアノまで捨ててしまおうかと思ったぐらいちっぽけな奴だ。

あの日俺に勝った奴の名前も覚えないまま、憎しみだけを持って今日まで生きてきた。


尊敬される部分なんて無いのに。