くすりと笑う若菜が、ゆっくり俺から離れていく。

「それに利一も、他に好きな人がいるんじゃないの?いるのに気付いてないだけだとか、そういうことはないの?」


熱く潤む瞳で若菜を見つめながら、無いと言い切れなかったのはどうしてか。

好きな人は、若菜だったはずだろう。

第一女子との交流なんてほとんど無い俺と話せる女子なんて、


女子、なんて……。


何も言えず考え込む俺に、若菜が優しく言う。

「私、ちゃんと利一のピアノが聴きたいな。…弾いてくれる?」

その声は緩く風に乗って、俺の耳を柔らかく刺激する。


答えは決まっていた。


「いいよ…」

指が俺を急かすように、忙しなく鼓動を伝える。