なんで、どうして。

彼女の影に重なる浅葱の存在が俺の思考をかき混ぜる。


――私、浅葱が好きなの。

あの時彼女は確かにそう言った。


言ったんだ。

「ずっと好きだったよ。小学生の頃から」

それは俺が若菜に恋心を抱いた時よりも遥かに前で、今の俺からすれば途方もないほど昔のことだった。

ちっとも気付かなかった。
俺が隠し続けてきた想いの歴史なんてバカらしく思えるほどずっと前から俺を好いていてくれたのか?


どうして?

「でも利一は私のことなんて一度も見てくれなかった。いつもピアノばかりで私なんて眼中になくて、だから苦しかった」

だって俺は、若菜に聴いてもらうためにあれほど練習していたのに。


「だけど浅葱ならちゃんと私を見て話してくれたから。…最後に惹かれたのは、浅葱だったの」

俺は――。