家の前でワンピースの裾をひらめかせながら待っている若菜を見て、ついさっきの出来事を思い出す。

重くなる足取りよりも、あんなに激昂した出来事をこれほど早く忘れられることに驚いた。


「利一」

視線が合った瞬間はにかむ彼女に胸が痛い。


それは彼女への想いの痛みか、彼女のことを忘れていたことへの痛みか。

「ごめんね、利一。今までずっと気付かなくて本当にごめんね」

若菜の滑らかな指が俺の頬を滑る。

触れたくて触れられなかった。
できることならずっとこうして共にいたかった。



「でも知ってる?
私も、利一のことが好きだったよ」


心臓を鷲掴みにされた感覚が俺を襲う。

体中の血が凍りついて、すべての機能が動きを止めた。