奏の言葉に違和感を覚えて、繋いだ手を思わず離してしまう。


俺は今まで、家にピアノがあるなんて話をしただろうか。

ピアノ専攻生だから家にピアノがあるのは当たり前と思われるかもしれない。


だけど彼女ははっきり「グランドピアノ」と断言した。

どういうことだ。

奏は家に来たことがある?
いや、そんなはずがない。

「早く元気になってね。じゃないと悲しいよ。アタシも、ピアノも」


俺がぐちゃぐちゃと考え事をしている間にそれだけ言い置いて、彼女は去って行った。

手中のミネラルウォーターのペットボトルは既に温くなっていて、その温度が俺を現実へ連れ戻す。


意識するより先に、足は家の方へ向かっていた。