今にも崩れ落ちてしまいそうなぐらいボロボロで頼りない声が俺を繋ぎとめる。
腕に違和感を感じて振り向くと、奏が後ろを向いたまま強く俺の腕を掴んでいた。
「こんなに辛いことばっかりなのに、俺にまだそれを味わえって?」
『それでもアタシはまだ、リーチのピアノを聴きたい…っ』
喉が熱くて痺れるようで、俺はぐっと奥歯を噛んでそれをこらえた。
泣きながら俺のピアノを待ってくれている人がいる。
少なくともここに一人。
煙草の吸殻を踵で踏みつぶし、振りむけないまま腕を掴んでいる手を強く握りしめる。
熱に浮かされたように熱いのは俺の手か、それとも彼女の手か。
わからないぐらい互いの掌はじっとりと汗ばんでいた。
通話を切って、スピーカーを通さない声で奏が言う。
「リーチの家のグランドピアノだって、きっと待ってるよ」
「え…?」


