休み時間も放課後も使って練習に励んだにも関わらず、スランプから脱出することはかなわなかった。

ショパンの「子犬のワルツ」からメンデルスゾーンの「結婚行進曲」まで、頭の中に思い描くありとあらゆる明るい曲を思い描いてみたけれど、一向にもやは晴れない。


頭をがしがしと掻いている所へ、耳障りな声が聞こえてきた。

「練習熱心だねー」

「うるさい。なんでまた来たんだよ」

出来ることなら二度と会いたくなかった。

人間とは思えないほどすごい目力をもつ目と視線が合う。


「あぁ、そうそう。アタシさぁ、アンタの名前結局聞かずに帰っちゃったんだよね」

「別に、名前なんてどうでもいいだろ」

簡単に教えるほど落ちぶれた名前は持ってないよ。

だけどそいつはケータイを取り出してカチカチいじりながらまったく帰る気配がない。