心拍が不規則に乱れ、跳ね上がる。

付けまつ毛を何重にも重ねた重たげなまぶたが大きく見開かれ、どこかぼやけた焦点を結ぶ。


どうする?
ここまでばっちり目線を合わせておきながら素知らぬフリをするのは不可能だ。

だけど何か気の利いた言葉なんて、いつも口論ばかりしていた俺たちの口から出てくるはずがなかった。


「なんでこんなとこに、いるの」

彼女の声はいつになく小さく頼りなくて、どうしてか胸が締め付けられる。

被害を被ったのはむしろ俺の方なのに。


「なんでって普通に買い物…だろ」

立ち読みしていた雑誌を置いて、奏が俺の側に歩み寄って来る。

1ヶ月。
それが俺と奏の離れていた時間。


だけど彼女を視界に入れた瞬間、急に奏の存在がどうしようもなく懐かしく思えた。