だけどいくら学校から遠ざかっても、若菜の残像とピアノの残響は俺を苦しめた。

若菜の存在は、俺にピアノへのトラウマを作った。

けれどピアノと共にいなければ、俺は何もすることができない。


どうすればいい?
どうすれば、俺は音楽のことを考えずに生きていけるんだろう。

今だってほら、たった一言「弾きたくない」と言っただけなのにこんなに苦しいんだ。

ぎりぎりと首を絞められるように全身が痛くて、今にも息が止まりそうだ。


…いっそのこと、誰かが俺を殺してくれたらいいのに。

そう思い始めたのと、目の前に見知った顔が現れたのは同時だった。



「あれ、北浜くん?」

ひよこみたいな黄色で緩くウェーブのかかった髪が俺の目を引く。

「どうしたの?そっち、学校とは反対方向だけど」

「…別に。何でもいいだろ」

去りかけた足は、駒田が腕を掴むから止まってしまった。


「お昼ご飯買い忘れたの?だったら購買で買おうよ。じゃないと遅刻するよ?」