爪は随分と気合いが入っているのに、ぐんと近づいたアイメイクはいつもより地味に見えた。
充分派手だけれど、あんなに人間離れした目を毎日のように見ていたらどこか物足りなく感じてしまう。
「言った通りだよ。もう、弾きたくないんだ」
こんなに辛いのに、泣くことができない。
それが一番辛かった。
「疲れたよ。何より、ピアノを弾いてたって俺には何の…メリットも無い」
言い切った瞬間、頬が熱く火照る。
叩かれたんだと理解するまでにかなりの時間を要した。
「わ…っけわかんない!!メリット!?そんな…、そんな気持ちで弾いてたわけ!?」
左の頬だけがじんじんと熱く疼く。
それは奏がその平手に込めた気持ちの大きさを示していた。
普通科のあんなにピアノが下手な奴にここまで怒られるなんて、俺は何をしているんだろう。
「じゃあ、どうすればいいんだよ…」
甘えるなと言われたって、誰かに助けを求める以外どうすればいいのかわからない。
自分でどれだけ考えても答えが出ないから他人に頼るのはいけないのか?


