奏には早すぎる時間設定かとも思ったけれど、意外なことに彼女は何も言わなかった。

早朝の中庭の空気はどこかしっとりと湿り気を含んで心地いい。


まだ運動部も朝練に来ていない時間で、学校全体が沈黙していた。

自分の息の音だけが人のいない校舎の中に溶けていく。



10分ほど待った頃だろうか。

俺の吐息の他に別の足音が混ざる。

沈黙は破られ、俺の口が開いた。

「起きれたんだな」

「当ったり前!てかリーチ、早すぎじゃね?まだ6時50分じゃん。絶対アタシのが早いと思ったのに!」

昨夜はまったく眠れなかった。

ヘッドホンを付けてバスキーの「マゼッパ」を聴き、課題曲であるリストの「ため息」と向かい合い、それでも眠気はちっともやってこなかった。


寝ることを諦めて空を眺めていたら段々と白く明るくなっていく様子が見えて、一睡もできないまま朝を迎えてしまった。