呼吸を止めた俺とは反対に、いつもより必要以上に柔らかい笑い声が聞こえる。
張り詰める、違和感。
『甘えてんのは、アタシの方なんだけどねー…』
「何かあったのか?」
『んーん、何にも。何にもないのに、掛けちゃったんだ』
そう言われて俺は悟った。
自分に話しかけてくる女子がいたと、戸惑いながら口にした彼女。
奏も不安なんだ。
『ごめんね。アタシ、今日はリーチに甘えてばっかみたい』
目を閉じて聞いているとケータイを耳に当てながら派手な髪を指に巻きつけてしゃべる奏の姿が、思い浮かぶようだった。
声には出さなかったものの、知らず小さな笑みがこぼれる。


