「あー……」
女々しいだとか、あいつには言われるんだろうな。
「わかってるよ…」
わかってる。
わかってるけど、体はなかなか忘れちゃくれないんだ。
どれだけ格好つけようとしても、奥に潜んだ本能が気を抜けば理性をかっさらっていく。
今はもう「俺の隣にいる」若菜じゃない。
あそこにいるのは、俺に触れてきたのは、「浅葱の彼女」だった。
ついさっきまでピアノを弾きたくてしょうがなかった指は、もうそれどころじゃなかった。
自由曲は、何にすればいいんだろう。
今日なら自分に最適な自由曲が見つけられると思ってた。
だけどあんな些細なこと一つで、俺の気持ちはこんなにも激しく揺らいで行き場を見失う。
これからやることを思い描いていたのに、もうさっぱりだ。


