俺がピアノを弾き始めたのは4歳の時。

母さんの友達の家にあったグランドピアノを見て憧れて、どうしても始めたいとねだった。

俺の家はよくある音楽家一族なんかではなく、ごくごく普通の一般家庭だ。


けれど音楽科のある高校に入学させてもらえたりピアノを続けさせてもらえるだけ、充分恵まれているのかもしれない。


浅葱は俺がピアノを弾く姿を見て、俺が7歳になった頃に後を追うようにピアノを始めた。

その時の浅葱は6歳だった。


俺はコンクールで次々と賞を取っていったけれど、浅葱は賞にそれほど執着は無いようだった。

ただ楽しく弾ければそれでいいと言っていた。

四葉高校に行く時、浅葱に聞いてみたことがある。


お前は音楽科には行かないのか?と。

本当は2人でずっと音楽を続けることを期待していたのだけど、彼は首を横に振って答えた。


「俺、自分でピアノを弾くよりも兄貴のピアノを聴くのが好きなんだ」