無責任な言葉を吐くのはとても格好悪いことに思えて、何も言えなかった。

こんな時、奏の彼氏はなんと言うのだろう。

体だけが目当てだったんだと奏に言わせた、あの男は。



駒田との演奏を終えた達成感と先生から隠れた後ろめたさと、いろいろなものがない交ぜになって、俺は軽く彼女の肩を叩いた。

「帰ろう」

帰ったらバスキーの「マゼッパ」をまた聴こう。

そうしてこの混乱しきった気持ちを落ち着けてほしかった。


奏を送って行くのもおかしい気がして、俺たちは分岐点で振り返ることなく別れていく。

「今日は、アリガト」

どこか舌足らずな口調に、小さく微笑みがこぼれる。


さっきまで灰色を溶かしたように暗かった空は夕日の熱に耐えかねて、オレンジ色の光を濃く溶かしていた。