恋した鬼姫

愛子は、休憩の時間になると必ず教室からいなくなり、図書室に通っていた。
せらは、悟った。それほどトラへの気持ちが本気なのだと。

せらは、今トラと一緒にいることを愛子に申し訳ない気持ちにかられた。

｢あの送って下さって、ありがとうございます。｣
せらは、トラに頭を下げると逃げるように走った。
トラは、突然せらの態度が変わったのと逃げるように行こうとしたせらが気になり追いかけた。

トラは、すぐにせらに追いつくとせらの前に立った。せらは、驚いて立ち止まった。

｢急にどうした？｣トラは、せらの表情が沈んでいるのがわかり、心配そうに言った。

｢いいえ、何でもないです。ただ、もう家も近いのでここまでで大丈夫ですから。｣
せらは、トラから目を反らすようにしゃべった。

トラは、少しため息をつくと、せらに何も言わずに行こうとした。

せらは、不機嫌そうなトラの顔を見ると慌てて、またトラの袖を掴んだ。

トラは、振り返った。せらは、また自然と体が動いてしまい、トラを掴んでしまった。

黙っているせらに、トラは言った。
｢…雨。｣

せらは、ふと夜空を見上げると沢山見えていた星がなくなっていて、せらの顔にポツポツと雨が降っていた。

雨は次第に強くなり、トラは慌ててせらの手を掴むと屋根がある建物の下に逃げ込んだ。
二人は、ビショビショに濡れたまま変な沈黙を続けていた。

せらは、ポケットからハンカチを取り出すと濡れているトラの髪を拭いた。
トラは、思わずハンカチを持つせらの手を掴みせらに微笑みかけた。

せらの顔は、また赤くなり目を反らすように下を向いた。

その時、二人の近くで雷が落ちた。

｢キャッ！｣せらは、思わずトラにしがみついた。

｢ごめんなさい！｣
せらは、慌ててトラから離れた。
しかし、トラは固まったように瞬きさえもしなかった。

｢トラ先輩、大丈夫ですか？｣
トラは、せらの呼びかけにゆっくりとせらの方を見た。

｢…セラ。｣

せらは、トラが自分の名前を言った気がしたが、何か違和感を感じた。

｢トラ先輩？｣
せらは、もう一度トラに話しかけた。

トラは、ハッと気づくなり、せらの体を引き寄せ強く抱き締めた。