男達は、宴会を続けていたが、女、子供はそれぞれの家に戻って行った。
セラもその場にいるのが嫌になり、部屋に戻ろうとした時、虎は楽しそうに話をしていた女と肩を組んで、虎の部屋へと入って行った。
セラは、急いで自分の部屋へ戻った。そして、そっと襖の隙間を開けると、虎の部屋を見た。

少しの間は、灯りがついていたが、フッと灯りが消えた。

セラは、襖を閉めると、襖に背もたれをして脱力感になった。まるで心臓を潰されてしまうくらい苦しく悲しくなった。

セラは、その場から逃げたくなった。今は、虎と同じ屋敷にいるだけでも、嫌になっていた。

セラは、裸足のまま静かに屋敷から飛び出した。

走って…、走って、川辺の草むらに倒れ込んだ。


「私は、どうしてしまったのでしょう。こんなにも、虎様に会いたかったのに。今は、近くにいるだけでも嫌な気持ちになるわ。」
セラは、泣きながら自分の気持ちが理解出来なくて混乱をしていた。



「だから、言っただろ。俺なら絶対にセラを悲しめない。セラだけを大切に出来る。」

セラが体を起こして見てみると、後ろで喜助が立っていた。

セラは、下を向いて喜助の顔を見ることが出来なかった。

しかし、喜助は諦めなかった。セラに近付くとセラの手を握った。

「俺は、まだお頭に勝てないかも知れないが、セラに対しての気持ちは、負ける気がしない。すぐじゃなくてもいいから、俺を見てくれ。」
喜助の眼差しは、真剣だった。

それでもセラは、ちゃんと喜助の目を見ることが出来ず、何か言わなくてはと思っているのに、言葉が見つからなかった。

喜助の手は、セラの手を強く握りしめた。
「痛い、…痛いです。喜助さん。」

セラが喜助を見ると、喜助の顔は、切なそうにしていた。


「喜助さん、すぐには返事をする事が出来ません。」セラが今出来る精一杯の言葉だった。

喜助は、分かっているはずなのに、セラの手を離す事が出来なかった。
セラも喜助が黙ったまま手を離してくれないので、どうしたらいいか、戸惑っていた。


「おいっ、いい加減。そいつから離れろ。」
虎が裸足のまま、セラ達の方へ向かって歩いてきた。

セラは、何処と無く虎が怒っているように見えた。
喜助は、慌てて手を離した。