何で……


「何でだよ!」


俺は乱暴にグラスをテーブルに叩き付けた。


俺の何がいけなかったって言うんだ。


4年間浮気だってしたことがない。合コンすらいっていない。


彼女に乱暴なこともしていないし、電話やメールだってマメに入れていた。


なのに……


「そりゃお前、無難過ぎるワ」


と、隣の男が口を挟む。


俺は目を細めて顔を上げた。


ここはダイニングバーのカウンター席。


隣に居る男は俺と同じぐらいの男で、仕立ての良いスーツに身を包み、きちんと髪をセットしてある。


スラリと背が高くてスマートで憎らしいほど足が長い。


おまけに男の俺から見てもかなりのルックスだった。


しかも香水か何かだろうか、柑橘系の爽やかな香りが心地よく漂ってくる。





しかし……


「あのぅ…おたく誰?さっきから…」


俺が独り言を漏らすたびに、その男が突っ込んでくる。


最初は空耳かと思いきや、そんなのが20分も続くとさすがに俺も気持ち悪い。





「俺?俺はシュウ。円周率の周」





と男はにこにこ答えた。