精神異常者の脱走は
マスコミ等には取り上げられない。
社会復帰を視野に入れているから
だと思う。
しかし、それなりの縄張りはある。



警察という組織は
しつこく追いかけてくるだろう。
公にされないまま
今も捜索は続けられている。



きっともう、
あたしたちのデータは
警察に渡っているはずだ。



だからあたしは光を浴びては
ならない。
闇の世界で息をひそめるしか
ないの。



あたしを飼った郷田という謎の男。
あんたの言葉通りには出来ない。
キレイごとの世界では
羽ばたけない。



あたしにとって光を浴びることは、
死を意味すること。
アイツらに見つかるわけには
いかないの。



元の世界に戻るくらいなら
今ここで舌を噛んで死んだ
方がマシ。
あの部屋にも、あの空間にも
あたしの“生”は微塵もない。



「ユラ、あんたなら出来るよね?」 



ミホは最後にこう言ったの。



静かに頷くあたしを見て、
優しく微笑んだ。



クランケNo.5933107
大場 ミホ
クランケNo.6011005
安西 ユラ



あたしたちは共に、
この名と過去を切り捨てて
別々の道を歩き始めた。







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