灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~




ものすごい力で抱きしめられて
あたしの奇声はピタリと止む。



『ごめん…!アキごめん!
 もう独りにしないから…!』



ここで初めてあたしは、
郷田の前で病んだことに気が付いた。
徐々に正常値に戻る脈拍と呼吸。
取り返しのつかなくなった現状に
言葉が出ない。



奇声に気付き様子を見に来た
警備員も、ただの痴話喧嘩だと
勘違いし去っていく。



静かになったあたしから
ゆっくりと離れる躰。
腫れ物を触るような視線が
重なる。
暴れた際に乱れた服を
そっと直してくれた横顔。



『帰ろうか。』



何事もなかったかのように、
その一言で
車は静かに走り出した。




流れる景色もBGMも
途中で交わしたかもしれない会話も、
何も覚えていない。
そこからの記憶は、
あたしの
脳から完全に滑り落ちていた。