灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~




一刻も早くこの場から
立ち去りたかった。



小さな台車に積まれた
段ボール2箱。
それをフロントで受け取り
駐車場まで運ぶ。



『それ、何?』



『これから必要な生活用品だよ。
 ここのホテルのオーナーとは
 知り合いだからよく譲っても
 らったりするんだ。』



『ふーん。』



『先乗ってろよ。』



キーを開けて助手席へ誘導される。
荷物を積んで台車を戻しに行く
背中を見送った。



独りきりになると急に
緊張感と警戒心が働いてしまう。
ほんのささいな物音や
誰かの靴音に過剰反応を示す躰。



次第に胸は高鳴り、脂汗が出てくる。
雑音が雑音でなくなっていく。
誰かの話し声や笑い声が
耳の中で繰り返し響き渡る。



手が痺れて、
ドアさえうまく開けれない。
呼吸が乱れ始める。
視界が歪んで、うつ伏せるように
倒れ込んだ。



『アキ……!?大丈夫か!?』



この声が届いた途端、
あたしは声にならない声で
奇声を発していた。
乱れる呼吸も声も全てを
郷田にぶつけて暴れてしまっていた。