『じゃあよろしくお願いします』
と言って郷田は部屋を出て行った。
見たこともないメイク道具が
目の前で広げられ、
鏡に映る自分が見る見るうちに
変化していく。
瞳を閉じて再び開ければ
優しい色に包まれた
もう一人のあたしが居た。
無表情で色を無くしたあたしが
まるで微笑んでいるかのよう。
鏡に映る自分を見据えていると
すかさず上から
『お気に召されませんか?』と
スタッフから声がかかる。
『いえ…。』
消え入りそうな声しか出なかった。
まだ、別人を見てるんじゃないか
と疑わずにいられなかったから。
手際良くヘアーメイクにも移り、
胸まで伸びたストレートヘアーは
緩く毛先を巻かれた。
サイドは編み込まれトップで
留めてある。
たった数分で
あたしがあたしでなくなった。
こんな穏やかな顔した自分は
何年ぶりだろうか。
もう記憶にない。
あの日に置いてきた、
まだ幼かった頃の自分が
鏡に映ってる。
もう二度と戻れないと
思っていたのに。
ただ変わってしまったのは、
もう笑わなくなったこと。
笑い方を忘れたピエロなんだ。
扉を開けると、
さっきとは違ったスーツに
身を包んだ郷田が立っていた。
マジマジとあたしを見て
フフンと笑う。

