『郷田。』
『え…?』
『あたし、あんたのことそう呼ぶわ。』
助手席で膝を立て、
窓の外を眺めながら言った。
彼が笑ったかどうかは
わからないけど。
『ご自由に』と答えが返ってきた。
ある程度走って、
車は警備員に誘導されながら
車庫入りする。
車から降りる際、
『アキ。ここからはコレかぶってろ』
とつばの広いハット帽をかぶせられる。
『は?意味わかんないし!』
『目立つんだよ。色々と。そのうち
わかる。』
よく理解出来ないまま
ホテルみたいな建物へと
足を踏み入れた。
艶やかに光る床の上を
コツコツと靴音を鳴らし歩いていく。
振り返って見る人たち。
自然とあたしたちをよけて
道は開かれる。
目立つってこういうこと?
周りが見てるのは間違いなく
容姿端麗な郷田だと思う。
当の本人はグラサンひとつで
後ろに居るあたしを
気にしながら歩いているけど。
あたし…
なんか場違いみたいじゃん。
こんなホテルみたいな場所に、
一体何があるって言うの…?