“何があっても動じないでください。
相手は異常者ですから悪気はない
のです。”
実際その場に立ってみると、
上手く躰は動いてくれない。
明らかに動揺してしまっている。
『まず、手すりを拭いてください。
ガムなどが付着していることが
あるのでコレを。』
作業用具を渡され、作業に取りかかる。
“彼女の部屋は向かって左側。
一番奥です。”
突き当たりまでに十部屋ほどあるため
まだまだ時間がかかりそうだ。
同じく探偵は壁の付着したゴミを
取り除いている。
部屋はそれぞれドアは閉まっているが
中を覗けるようにガラス窓がある。
気付かれないようにチラッと覗いて
みると、若い男がボロボロのクマの
ぬいぐるみに泣きながら話しかけて
いた。
思わず目をそらすと探偵と目が
合った。
黙って頷かれ、互いに作業を
再開する。

