『な、何だ?』



『会社には今まで通り、事業の立て
 直しに携わります。一億円アップ
 は必ず実現してみせます。もし実
 現したら、あの別荘を僕に譲って
 もらえませんか?』



何度か連れて行ってもらった
大きな桜の木のある別荘。
満開の時期に連れてきてもらった
時は、思わずあの日と重なった。



ゆらと出逢ったあの日が瞬時に
蘇ったんだ。
もう何年も前のことなのに……
鮮明に覚えてる。
毎年、桜の花びらが舞うと
いつも思い出す。



『そしてもう一つは……実現した時点で
 後継者及び代表取締役を叔父さん名義
 に託したいのです。』



『あ、秋人くん……』



驚くのも無理はない。
でも、周りがそう願っているのは
前々から気付いていたんだ。
俺は金も地位も名誉もいらない。



欲しいのはただ一つ………。



『実現させて、引き継ぎが済んだら
 僕は離職します。働いたお金と
 退職金だけで結構です。』




『しかし君は郷田家の…』



『離縁手続きをお願いします。』



『……………!』