透明水彩


「みなぎ、サン。このままの体勢、で、あそこまで、移動します、よ。」


途切れ途切れになる、莱の言葉。
不規則に乱れる、莱の呼吸。

莱に促され、死角が多くなりそうな窪みへと移動した。そのままの体勢で、莱があたしを守るように。

響き続ける破裂音に、時折莱が微かな呻きを漏らしていたのにもあたしは気づいていた。それでも何もできなくて、ただただ気だけが動転して。巡る赤の記憶に現実が重なる。


「……っ、美凪、サンっ、怪我、ないです、かー?」


窪みへと身を隠し、壁面に背を預けた莱が最初に発したのはその言葉だった。

腹部や手足、挙げ句の果てには顔からも血を流しているくせに、莱が案じているのはあたしの身……。

痛々しい姿に涙が溢れてきたけれど、そのままコクリと頷けば、莱は安心したかのように優しく笑った。

命に代えても――…

アジトを出る前、莱が理人に言っていた言葉が不意に脳裏をよぎる。
あたしなんかに、命懸ける意味なんて存在しないのに……