「……理人、今日はありがとう。」
「いや、別にお礼言われるほどのことはしてないよ。」
「ううん。こーいうことまで気にかけてくれて、嬉しかった。」
「そう。それなら良かった。」
ほぼ丸1日かけて色々特訓し、部屋まで送ってくれた理人と、別れ際にそんな会話を交わす。
すると刹那、薄く笑みを湛えていた理人の表情が、急に真剣みを帯びた表情へと変わった。
「ねぇ、美凪。」
「……何?」
「何か、悩んでるだろ。」
「え……?」
そして紡がれた、ほぼ断定しきった言葉に、どくん、と大きく胸が鳴る。
「美凪は昔から、わかりやすいから。何かあればすぐ顔に出る。」
あたしの、悩み……
特に、悩んでることはない。それは事実。
けれど強いて言うならば、先日の湊との会話から、あたしの中で何かが引っ掛かってしょうがないことも、また事実だった。