透明水彩


…――刹那、


「杉山サーン、どうせいつもの如く気のせいなんですから、深く考えるだけ無駄ですよー。だからそんなことより、今日のオススメメニューを2人分お願いしますー。」


雰囲気をぶち壊すように発された莱の言葉に、杉山さんの視線はようやくあたしから離れる。


「相変わらず酷い言い様ねぇ。……まぁ、いいわ。じゃあ、少し待っててちょうだい。」


そして苦笑を零した杉山さんは、踵を返して厨房の方へと戻っていく。その後ろ姿を見ながら、あたしは小さく息を吐いた。


「……すみません、美凪サン。まさか今日、あの人がいるとは思ってなくて。」

「あー…、別にいいよ。まぁ、さすがにちょっと、焦ったけど。」


違う時代から来たあたしがこの世界にいて、リングとともに存在している。
その事実は、決してバレてはいけない。この世界のためにも、あたし自身のためにも。

申し訳なさげに眉を下げる莱に笑いかけながら、あたしは改めてそう、肝に命じた。