透明水彩


「…この辺が1番酷かった場所なんです。美凪サンの家とかあの辺は、そこまで破壊とかはされてないですしー。…あ、それは知ってますよね。」


そう言って笑い、優しく手を握ってくれた莱には、本当にあたしの気持ちが伝わっているのかもしれないな、なんて、有り得ないことを思った。

でも確かにあたしが、向けられる笑顔に、右手から伝わって来るぬくもりに、安心感を覚えたのは事実で。

胸に渦巻く混沌とした恐怖も、少しずつ和らいでいるのも否めない。


「あ、美凪サン。あそこですよー。」


途絶えることのない思考は、突如として鼓膜を刺激した莱の声によって中断された。

指差された方を見ると、頑丈な柵……というか、防壁のようなもので周囲を囲まれた端の見えない広い敷地。


「この中が、今の市街地です。」

「……中に、お店も、人も?」

「ハイ。旧市街地を丸々移したような感じですかねー。」


予想だにしない光景、変わり果てた環境に、言葉なんて出てきやしなかった。