透明水彩


「お父さん…、お母さん…っ!」


もう、いくら呼んでも2人があたしに微笑んでくれることも、答えてくれることもない。温かい両手が、あたしを包んでくれることも、ない。

…――怖い。

人の死に、ましてや1番身近で大切な人の死に直面して、それが1番心の大半を占める気持ちだった。

…――ただ、怖い。
1人が、怖い。

大切な人の存在が、消える。
居なくなる、怖い。
あたしを1人にしないで、
置いていかないで……

無音の室内、降り続ける雨の音だけが、絶え間無くあたしの鼓膜を刺激する。――ああ、うるさい。うるさい。うるさい。

流れ続ける涙を拭うこともせず、あたしはゆっくりと立ち上がった。ゆらゆらと、視線が定まらないまま歩み、暗闇の雨の中へと飛び出す。そしてただ、走った。

行く当て、なんか無い。
それでもあの空間、――真っ赤に彩られた非現実的な異空間にいるのが、どうしても堪えられなかったから。