簡単に言えば、これだけ須山がやり抜いて、検察側である能島が法廷で証人調べに失敗したとなると、結論的には弁護側が無罪を勝ち取れる公算が高い。


 日本の司法もバカじゃないのだ。


 裁判だって公平に行われてしかるべきである。


 それに電話会社社員の青鹿の証言で篠岡幸子という人間が有力な容疑者として挙がっている以上、木崎に対するお咎(とが)めはないものと見て間違いなかった。


 篠岡は高額の借金を背負わされた人間で、商社に勤めていて潤沢に金を持っていた寺田を殺すだけの動機が十分ある。


 まとまった額の金銭を奪い取った後、口を封じるぐらい簡単だからだ。


 篠岡ぐらいの人間ならやりかねない。


 今、ディスプレイ上に出ている顔写真も実におぞましかった。


 殺人と死体遺棄は死刑相当の重罪を課される。


 仮に警察職員が書いた員面調書に虚偽の記載や、明らかに自白を強要したような箇所があれば、次回の証人調べと第一審の結審において重大な手掛かりとなるのだ。


 篠岡が事件に関与していた疑いが濃厚だった。