事件に関しては、僕に適(かな)わないのが現実だ。


 僕自身、会合でビールをグラス一杯軽く飲み終えた後、近くにいた先輩弁護士が、


「ああ、君たちもこっちにおいで。そんなところにいないで」


 と言ってくれた。


 見覚えがある顔だなと思う。


 そして次の瞬間閃(ひらめ)いた。


 ああ、あの日曜日の夜のテレビ番組に出ている川谷(かわたに)勝也弁護士だなと。


 川谷はテレビで見るのとは打って変わって、気さくな中年男性で、


「君は名前何ていうのかな?」


 と訊いてきた。


 名乗ると、


「ああ、君が園岡(そのおか)敬一君だね。須山先生から聞いて知ってるよ。刑法が専門で今度木崎朱莉さんの弁護を手伝うって?」