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 十一月末の東京は冷えていて、東京高裁もフロア自体に暖房が入っていた。


 控訴審の第一回証人調べが執り行われる。


 控訴審の弁護側からのアプローチは寺田を殺害した実行犯の中邑靖志が、篠岡幸子と組んで犯行を行なっていた可能性が高いのを立証することだ。


 篠岡と中邑の共同正犯立証のためには、あの死体遺棄現場に残されていた指紋や掌紋、体液などの鑑定を再度警視庁鑑識課の刑事に依頼する必要性があった。


 警察が再捜査に乗り出して、篠岡・中邑両名の身柄を確保し、取調べを進める。


 そんな中、裁判の証人調べで法廷の証言台に立ったのは電話会社の職員の青鹿で、木崎の110番通報を聞いた人間だ。


 青鹿の言葉は第一審のときと全く同じで、篠岡たちが木崎に代わり、新たに真犯人として浮上してくるのが手に取るように分かった。


 警察も警視庁内で取調べを進めていて、今回の事件でどうやら篠岡たちがタッグを組み、木崎朱莉に罪を着せたものと思われる。


 こうなってくると、検事の能島も一から考え直さざるを得なかった。


 つまり起訴状に矛盾点が生じてくるのである。