「8月26日、帝都シティホテルに夜7時」

「何それ」

「お前の本当の両親が待ってると伝えて欲しい、と」



8月26日、それは夏休み最終日。

絶対行かない、そう思ったし、そう言った。

俺の両親は父さんと母さんだけだって、そう言った。

それなのに。



「会いに行って来い」



そう言った父さんに、そばにあった皿を床に投げ捨てて怒鳴り散らしてしまったのは、俺の所為じゃないと思う。





割れた皿に、母さんが小さく悲鳴を上げた。



「何勝手なことしてんの……?」

「……」

「俺が一度でも本当の両親に会いたいって言ったことあった……?」



幼い頃、俺はずっと一人だった。

今の両親と出会うまで、俺は愛されたことなんてなかった。

会いたいと思ったことがない、と言ったら嘘になる。

あまりない記憶の中にも寂しかったことはなんとなく残っているし、施設にいた頃は実の両親に会いたいと思ったこともあったかもしれない。

だけど、今の両親に引き取られてからはそんなことを思ったことも言ったこともない。



「なんで、なんでそんなことになるんだよ‼︎」