「真梨」


お風呂から上がって、女用のえんじ色の浴衣を着て。

暑いね、なんて菜穂と言いながら、脱衣所から外に通じる暖簾をくぐった時だった。



声だけで、わかった。

姿を瞳に映さなくても、わかった。


「真梨……」


後ろから抱きしめられて伝わってきた温もりは、あたしが焦がれている愛しい人。


「あたし、先に戻ってるね」


気を利かせたようにそう言って、背を見せる菜穂。

それを見届けることもないまま、あたしは愛しい人によって振り向かせられた。



目に入ったのは、漆黒。

さらりとストレートの黒髪が揺れて、綺麗な銀の瞳と目が合う。