「そういうわけじゃ……ない」
「じゃあ、どうしたの?」
「……」
戸惑っているような、困惑しているような、そんな沈黙。
「れん、が……」
真梨が、少しづつ言葉を紡いでいく。
「蓮が……知らない人に、見えたの」
知らない人。
それはきっと、誰にでもなりうる。
だって、あなたの知ってるその人がその人の全てではないから。
「真梨の知らない所を見ちゃったんだ?」
小さく頷く。
「あたしの知らない蓮がいるのは当然だってことはわかってる。蓮だってあたしの全てを知ってるわけじゃないし。
でも……わかってるけど、胸が苦しい。張り裂けそうに、痛い……」
「うん」
「あの蓮を知ってる人がいるのかも、って考えるだけで嫌」
恋愛は理屈じゃない。
だからこそ苦しい。
それはよくわかる。
「でも……」
そして、
「こんな自分が、一番嫌だ」
綺麗に見える想いが真っ黒になるのが恋愛だ。



