海で、水着姿だという雰囲気が関係しているのだろうか。
顔を上げたけれど、蓮の表情は逆光でよく見えない。
でも、蓮は戸惑うことなく顔を近づけて――互いに触れた。
啄ばんで、下唇を甘噛みされる。
反射的に開いた口から蓮の舌が入ってきて、あたしのそれを絡め取った。
あたしの息が上がっても、蓮は自分のペースでキスし続ける。
はぐらかされた気がして、あたしには遣る瀬無さだけが溜まっていた。
満足したらしい蓮とあたしのそれが離れたのは、大分経ったあとだった。
いや、もしかしたらほんの数分だったのかもしれない。
だけど今のあたしにとっては数十分にも感じた。
「……降ろして」
「ん?」
「降ろして!」
急に声を荒げるあたしに、蓮は面食らったのかなんなのか、素直に従う。
足のつくところまで戻った蓮に降ろされたあたしは、蓮の手を振り払って波打ち際の方へ歩いて行く。
「真梨⁈」
蓮があたしを呼んでいたけど、振り返らなかった。
きっと、今のあたしは酷い顔をしてるから。
蓮は悪くないって、わかってる。
でも、あの甘い切ない声を思い出すと胸が痛い。
ただの嫉妬だってわかってる。
あたしだってたくさんの人とシてきたのに……ね。
だけど、嫌だ。
あんな蓮を他に知っている人がいるってだけで嫌だ。
そして、そんな汚くて真っ黒な自分が、一番嫌いだ。



